日本人の誰もが愛して止まない。そんな日本の国民食といえばラーメンとカレーではないだろうか。
「ライスカレー人間というのは、現状維持型の保守派が多くて、ラーメン人間というのは欲求不満型の革新派が多い。それはライスカレーが家庭の味であるのに比べてラーメンが街の味だからかもしれない」
寺山修二は著書『書を捨てよ、町へ出よう』(1967年)でこのような一節を残している。カレーライスではなく、ライスカレーという呼び方に時代を感じる。しかし、それぐらい前からカレーとラーメンが日本の国民食だったことが証明されているようで私はこの一節を今でも鮮明に覚えている。
さて、そんな日本人の国民食「ラーメン」がここバンコクで凄いことになっている。なんと120店舗以上のラーメン店がバンコク都内にはあるという。北は北海道、南は熊本まで、日本の各地のラーメンをバンコクで食べる事ができるのだ。ただ面白い事に、醤油味や味噌味で知られる地方のラーメン店にも、必ずと言っていいほど豚骨味のラーメンメニューが用意されている。それはタイ人が醤油や塩といったあっさり系の味よりも、こってりとした味を好むからだ。そう、バンコクのラーメンブームを支えているのは豚骨味なのだ。
福岡県筑豊の『山小屋』は都内だけでなくバンコク国際空港の国内線ゲートにも店舗があり人気だ。
昨年は福岡の『博多一風堂』が高級デパートである<セントラル・エンバシー>に1号店をオープンさせ、半年後には<エンポリアム>にも支店をだした。値段も1杯220バーツからと決して安くはない。しかし今でも週末には両店には行列ができる。ホテルのラウンジのような高級な店内は正直、一人で入るのがはばかられる。今やラーメンは高級料理でもあるのだ。日本の『一風堂』の雰囲気と価格を知っている身としては本当に複雑な心境だ。
そんな高級店があるかと思えば、デパートの地下食堂にブースを構えるラーメン店もある。店の名前もラーメンの名前も『熊本ラーメン』。果たして、どこがどう熊本なのか悩むが味はやっぱり、こってりの豚骨味だった。
果たして、まだまだバンコクのラーメンブームは続くのだろうか? 寺山修二的に考察するとバンコクの人たちは欲求不満型で革新的な人が多いと言う事になるのだろう。確かにと思う。
中村蒸一 Profile
タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。 詳しくはこちらをクリック! インタビュー「熱い思いで本物の日本居酒屋をタイに根付かせる!」