月別アーカイブ: 2017年3月

仏教国タイならではの
「タンブン」一部始終

日本には六曜という暦注のひとつが生活に根付いている。結婚式なら大安が良いといわれ、仏滅を避ける人が多い。また友引の日には、葬式を行わない地域もまだまだ多いようだ。勝負事や事業のスタートは先勝の日が好まれるのもなんとなくわかる。縁起担ぎとはいえ、六曜は日本の文化であり、冠婚葬祭や行事ごととは密接に繋がっている。

ここタイには六曜のような暦を軸にした吉凶判断の文化はない。冠婚葬祭などの日取りを決めたり、判断してくれるのは占い師だったり、お寺のお坊さんであることが多い。

先月末に店舗の拡張工事が無事に終わり、いつから、そこの場所で営業をはじめるかを決めてくれたのはお坊さんだった。そして、営業はじめる前に、まずは仏壇を新しい店舗部分にもうけ、線香に火をつけお供え物をあげる。物や人を入れる前に、仏像から運び入れるのもタイならではの習慣だ。

 

それだけじゃない。営業をはじめた後も、良い日柄を選んで「タンブン」という儀式をする必要がある。タンブンとはお布施という意味だが、いろいろな意味で使われる言葉だ。この場合のタンブンは、日本の落成式のことで、お寺からお坊さんを呼んで行う。お呼びするお坊さんの人数は5名や9名の場合が多い。5や9がタイでは縁起の良い数字とされているからだ。ちなみに今回のタンブンは5人のお坊さんをお呼びして行った。

タンブンの開始時間は朝7時半。タイのお坊さんは正午から翌朝の日の出までは食事をすることができない。そんな理由からタンブンは午前中に行う必要があるのだ。

まずは30分ほどの読経から。それが終わると、従業員総出でお坊さんを食事でもてなす。食事の後に、再び10分ほどの読経が続く。最後は清水で店内や従業員を清めてもらい、お布施を渡すとタンブンは終わる。1時間半ほどの祭事だが、祭壇の設置や料理の準備は前日から従業員総出で行った。終わると本当にほっとする。職場の安全、平穏無事を祈念して行うタイの儀式、タンブン。お坊さんをお寺へ送り届けた後は、従業員一同で車座になって食事をする。食べるのはお坊さんをもてなした料理の残りだ。お坊さんが食べた後に食べるのがしきたりなのだとか。そして、それを食べることでご利益があるという。

しかし、そんなことより床に座り皆で食べる料理は普段の食事の何倍もおいしい。会話もはずむ。従業員との結束というか絆が深まった、そんなひと時だった。

 

中村蒸一 Profile

ph7

タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。 詳しくはこちらをクリック! インタビュー「熱い思いで本物の日本居酒屋をタイに根付かせる!」

現代もタイ人の生活に
根付く精霊信仰

果たして今時の日本の子供たちはどんな言い伝えを親から聞き育っているのだろうか? スマホを操ればどんな情報でも手に入る時代である。そもそも言い伝えやジンクスを信じない、いや知らない子供たちが多いのではないだろうか? 私が子供だった時代は、「夜中に口笛を吹くな」とか「夜中に爪を切るな」などと真顔で親から叱られたものだ。生活の中に言い伝えが確かにあった。

さてここタイでは今もなお色々な言い伝えが人々の暮らしの中に根付いている。一番身近なものは、タイ人がニックネームを使うことでないだろうか。タイ人のニックネームは子供の頃に、親や親戚が付けてくれることが多いという。本名で子供の名前を呼ぶと、悪霊が子供を連れ去って行くので、本名ではなくニックネームで呼ぶようにしているのだとか。このタイ人のニックネームには豚や猫、鳥、バラなど動植物系が多いが、親切、意地悪、デブ、雨など変わったニックネームを持つ人もいる。また最近では、ビリーやベンツ、ジョンなどと横文字系のニックネームが多いのは時代の流れだろうか。個人的にはタイ人のニックネームには随分助けられた。なぜなら、タイ人の本名は難しい名前が多く、また発音も難しい。なかなか覚えられないので、ついついニックネームで呼んでしまう。実はタイ人でも同じなのではないだろうか。長年交流があるタイ人同士でも本名を知らないという場合もあるようだ。

このほかにも、水曜日は髪を切ると縁起がわるいとか、妊婦は悪霊から身を守るために安全ピンを服に着けるとか、色々な言い伝えがタイでは信じられている。でも、そんな言い伝えのほとんどが霊に対する信仰から来ているのがタイらしいところだと思う。

タイには宗教とは別に精霊信仰が根付いている。大きな木には霊が宿るとされ、色々なお供え物が供えられる。近所にある木には女性の霊が宿っているらしく、女性ものの服を供える人が絶えない。

また大きな家や建物の敷地内には、その土地の精霊を祀るサーン・プラ・プームが立てられ、そこに出入りする人は必ずこの祀柱に挨拶するのがタイでの常識なのである。またお供え物をしたりすると、ご利益があるとも言われている。このサーン・プラ・プームは日本の神棚の様な存在かもしれない。また、建物の入口に赤い棚を置き家霊を祭る家もある。これは、どちらかと言うと中国からきた文化だろうか?

宗教以外の信仰。タイと日本の大きな違いは神を崇めるのか、霊を崇めるのかの違いだ。

日本は神の国。そしてタイは霊の国。そこが分かると、タイの違った一面が見えてくる。

 

中村蒸一 Profile

ph7

タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。 詳しくはこちらをクリック! インタビュー「熱い思いで本物の日本居酒屋をタイに根付かせる!」

携帯電話の番号も
悲喜こもごも

 実は携帯電話の番号を3つ持っている。いま時だと、決して珍しい話じゃないかもしれない。

一つ目の番号は15年以上も使い続けている番号で、081という3桁の数字からはじまる番号だ。この081という番号は、もともと01という元祖携帯電話識別番号だった。しかし、携帯電話の利用者が増え続け、番号が足りなくなり、0と1の間に8を入れることで、タイの携帯電話会社は最初の番号不足危機を解消させたのだ。だから081からはじまる携帯番号を持っている人はスマートフォン以前からの加入者、携帯電話元祖加入者ということになる。ある意味希少価値のある番号かもしれない。今では嘘のような話だが、携帯電話を持つのに多額の加入費用が掛かり、携帯電話自体も高価で贅沢品だった時代の番号なのだ。

 2つ目の番号は日本の携帯電話番号である。タイの携帯電話番号を日本でローミングして使うことも可能ではある。しかし、実際に使うと思いのほか高く思いがけない出費になる場合が多い。そこで2年前より、基本料金が定額980円というMVNO系格安携帯電話会社に加入し、日本の携帯電話番号をもつようにしたのである。日本では何かにつけて携帯電話の番号を聞かれることが多い。日本出張が多い自分にとっては、日本の携帯電話番号はなくてはならない存在なのだ。

 最後の3つ目の番号。これは厄除け、縁起担ぎ、あるいはお守り代わりに持っている番号だ。嫁さんが、普段タイで使っている081からはじまる番号が良い番号でないから、この番号に変えろと言って用意してくれた番号なのである。タイには姓名判断のように、携帯電話番号運勢判断というのがあり、自分にあった携帯電話番号を判断してくれる易者、占い師のような人がいるのだ。また携帯電話番号運勢判断専門の書籍もでているほどである。そんな携帯電話運勢判断に凝り始めた嫁さんによると、私が10年以上も使い続けている番号は非常によくない番号らしいのだ。「思いがけない支出が続き、お金が貯まりにくい。常に金策に追われ、やり繰りに悩まされることになる」なんとも忌まわしい判断ではないか。しかし、そうだからといって簡単に番号を変えるわけにはいかない。何より携帯の番号を変えるだけで、運命が一転するのなら誰も苦労はしないだろうよ。そんな冷めた思いもある。でも、嫁さんの気遣いをむげにするのも忍びない。なので、この3つ目の番号はタブレットにいれることにした。使うのは嫁さんへ連絡を取るときだけ。夫婦の絆を維持するための専用番号。まさに厄除け、縁起担ぎ、そしてお守り代わりの番号なのだ。

携帯電話ショップの店頭でも縁起のいい番号はプレミア価格がついています。

 

なんと、携帯電話の番号の持つ運勢を判断するための書物も存在するのです。

中村蒸一 Profile

ph7

タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。 詳しくはこちらをクリック! インタビュー「熱い思いで本物の日本居酒屋をタイに根付かせる!」