仏教国タイならではの
「タンブン」一部始終

日本には六曜という暦注のひとつが生活に根付いている。結婚式なら大安が良いといわれ、仏滅を避ける人が多い。また友引の日には、葬式を行わない地域もまだまだ多いようだ。勝負事や事業のスタートは先勝の日が好まれるのもなんとなくわかる。縁起担ぎとはいえ、六曜は日本の文化であり、冠婚葬祭や行事ごととは密接に繋がっている。

ここタイには六曜のような暦を軸にした吉凶判断の文化はない。冠婚葬祭などの日取りを決めたり、判断してくれるのは占い師だったり、お寺のお坊さんであることが多い。

先月末に店舗の拡張工事が無事に終わり、いつから、そこの場所で営業をはじめるかを決めてくれたのはお坊さんだった。そして、営業はじめる前に、まずは仏壇を新しい店舗部分にもうけ、線香に火をつけお供え物をあげる。物や人を入れる前に、仏像から運び入れるのもタイならではの習慣だ。

 

それだけじゃない。営業をはじめた後も、良い日柄を選んで「タンブン」という儀式をする必要がある。タンブンとはお布施という意味だが、いろいろな意味で使われる言葉だ。この場合のタンブンは、日本の落成式のことで、お寺からお坊さんを呼んで行う。お呼びするお坊さんの人数は5名や9名の場合が多い。5や9がタイでは縁起の良い数字とされているからだ。ちなみに今回のタンブンは5人のお坊さんをお呼びして行った。

タンブンの開始時間は朝7時半。タイのお坊さんは正午から翌朝の日の出までは食事をすることができない。そんな理由からタンブンは午前中に行う必要があるのだ。

まずは30分ほどの読経から。それが終わると、従業員総出でお坊さんを食事でもてなす。食事の後に、再び10分ほどの読経が続く。最後は清水で店内や従業員を清めてもらい、お布施を渡すとタンブンは終わる。1時間半ほどの祭事だが、祭壇の設置や料理の準備は前日から従業員総出で行った。終わると本当にほっとする。職場の安全、平穏無事を祈念して行うタイの儀式、タンブン。お坊さんをお寺へ送り届けた後は、従業員一同で車座になって食事をする。食べるのはお坊さんをもてなした料理の残りだ。お坊さんが食べた後に食べるのがしきたりなのだとか。そして、それを食べることでご利益があるという。

しかし、そんなことより床に座り皆で食べる料理は普段の食事の何倍もおいしい。会話もはずむ。従業員との結束というか絆が深まった、そんなひと時だった。

 

中村蒸一 Profile

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タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。 詳しくはこちらをクリック! インタビュー「熱い思いで本物の日本居酒屋をタイに根付かせる!」