鹿児島の片田舎に生まれた。小学校に通いはじめの頃だったと思う。近所のお店にコカ・コーラの自販機が置かれた最初の日の事を今でも何故か覚えている。
硬貨を入れると自動で缶ジュースと釣銭が出てくる当たり前の風景。この当たり前の風景を数時間、飽きることなく眺めていた。幼かった自分にはマジックを見ているような気分だったのだと思う。
今では自販機を見ても、あの頃の様な感動はない。今やあって当たり前。自販機は日本の象徴ではないかと思うぐらいだ。しかしここタイでは飲料水の自販機をほとんど見かけない。どんな細い通りにもある小さな雑貨屋が自販機の代わりなのだろう。実際にタイに暮らしていて「飲料水の自販機がないから苦労した」、そんな記憶は全くない。喉が乾けば、雑貨屋はもちろんコンビニが街の至る所にある。
しかも雑貨屋では今でも瓶のコーラを氷が入ったビニール袋に移して売ってくれる。もちろん缶のコーラより安い。案外持ち運びに便利で、しかも氷が入っているのでお得感もある。だからか? 袋入りのコーラが好きだというタイ人は多い。そんなこともあってタイでは飲料水の自販機が普及しないのだろう。
しかし、ここ数年ある自販機がバンコクを中心に増えてきている。コンビニの軒先、ビルの入口、マンションのロビーなど至る所でこの自販機を目にすることができる。この自販機はコンパクトで一見すると公衆電話と見間違うほどだ。そして正確には自販機ではなく自動支払機なのである。
気になる機械の正体はプリペイド方式携帯電話の通話料金を振り込む為の機械だ。自分の番号をプッシュボタンで押して、希望の金額を硬貨なり紙幣なりで払い込めば完了。積み増しされた通話料金は自分の携帯電話へSMSが届き確認できる。レシートも出てこないシンプルな機械である。手数料も3バーツから5バーツと安い。しかもタイの主要な携帯電話会社全社に対応している。
好きな時に希望する金額だけ払い込める携帯電話の通話料自動支払機。とにかく電話好きなタイ人には、今や欠かせない機械なのかもしれない。ところ変われば自販機の市場も変わるのか。こんな機械がねぇ? と日本人的には思うのだが。
中村蒸一 Profile
タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。
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