<寅次郎>で食べられる『海鮮ちらし』。ウニ、イクラなどがのる贅沢な一品
「九州」がテーマの居酒屋
昨年8月、スクンビットのソイ26に開業した<湯の森 温泉&スパ>は、タイ初の本格的日帰り温泉施設として話題を呼びました。日本さながらの設備の充実ぶりにも驚かされますが、併設された居酒屋のメニューを見れば「ここは日本?しかも九州?」と我が目を疑うはずです。『いわし明太子』や『長崎皿うどん』などタイではあまりなじみのない九州の料理が並ぶだけではなく、その食材の多くも九州から仕入れたもの。醤油などの調味料も九州のブランドを採用するなど、かなりの徹底ぶりです。店の名は<九州酒場どんたく>。同じスクンビット・エリアに2店展開する居酒屋<寅次郎>の姉妹店で、<どんたく>としては、スクンビット・ソイ47の<レイン・ヒル>内に続き2店舗目の出店です。<寅次郎>と言えば、1997年のオープン以来、日本人だけでなくタイ人にも根強い人気を誇る居酒屋。トレードマークは鯛を抱えた「えびすさま」なのですが、そのイラストの微妙なリアル具合は「お店のオーナーさんがモデルなんだろうなぁ」と思わせるものです。実際にお目にかかったオーナーの中村蒸一さんは、イラスト同様にふくよかな耳たぶがトレードマークのエネルギッシュな御仁でした。
<寅次郎>の店舗前にディスプレイされる「えびすさま」こそ中村さんその人
中村さんは筆も立つ。新聞に連載をもっていたこともあります
NGOから未経験の飲食業へ
鹿児島出身の中村さんが、タイの地を踏んだのは24歳のとき。島根大学で学校の教師を目指し勉学に励んだのち、ひょんなことから、教育を受けられない海外の子ども達をサポートするNGOのボランティアとしてタイを訪れたのでした。そんな折、トンロー・ソイ13の<日本人村>のテナントが埋まらないから力を貸してくれと声をかけられ、これまた、ひょんなことから居酒屋<寅次郎>を開業する運びになったそうです。ところで、なんで「寅次郎」だったんですか?
「そりゃぁ『男はつらいよ』ですよ」。
元手もなく始めた居酒屋稼業は、「つらい」ことも多々あったわけです。しかし、その後事業は幾多の苦難を乗り越えて拡大し、今やバンコク市内で居酒屋の数は合わせて4軒になりました。また、7月にはチェンマイへの<寅次郎>出店も果たしました。また、居酒屋のほかに、ベーカリーや日本食材の輸入販売業も手掛け、多忙な毎日を過ごしています。
ビールはアサヒ『スーパードライ』。なんと中ジョッキが99バーツと格安!
タイ人スタッフと共に歩む
「結婚と同じですよ。開店はゴールじゃなくてスタートなんです」。
日本からタイへ進出する飲食店は後を絶ちませんが、そのすべてが順調な事業展開を果たしているわけではありません。むしろ、事業が立ち行かなくなり、撤退を迫られる飲食店の方が多いはず。そんななか、中村さんのお店が順調に展開できた理由をたずねた時に出て来たのがこの言葉です。開店したことに満足するのではなく、そこからサービスを磨いてレベルをどんどん高めていくことが重要とのこと。
「コツはコツコツと。誠実さが大切です」と成功の秘訣を語る中村さんですが、日本人とまったく慣習の異なるタイ人従業員と店舗を運営するのは、並大抵の苦労ではなかったのでは?
「うちの店はタイ人のお客さまが多いので、現場で接客しているタイ人スタッフからのフィードバックがとても重要です。彼らと信頼関係を築くために心がけているのが『エンドウマメ』です」。
つまり「遠慮するな」(エン)、「どうした?/どうしたい?」(ドウ)、「マメに聞く」(マメ)の3つが、タイ人とコミュニケーションをとるうえでの大事なキーワードだそうです。中村さんのタイ人従業員に対する細やかな心遣いは、現代の日本企業にはあまり見られないものかもしれません。新しくスタッフが入って来たら、その名前や顔はもちろん、誕生日や家族構成まで頭に入れて接するそうです。「誠実さが大切」とは、お客さまだけではなく、従業員に相対する時にも、中村さんが意識している言葉なのですね。
<どんたく>で食べられる『かつおのたたき』は中村さんのふるさと、鹿児島の名物
世界を舞台に新たな挑戦も
<寅次郎>とはまったく異なるコンセプトの<どんたく>を展開しようと考えた理由を、中村さんは「ふるさとの九州に強い思い入れがあるんです」と語ってくれました。九州は、タイの人にとって決して人気の旅行先ではありませんが、<どんたく>のおかげで彼らの間でも少しずつ「九州」の知名度が上がってきたようです。
「たくさんのタイ人にわたしのふるさとに足を運んでほしいと思います。『<どんたく>店主と一緒に行く九州ツアー』なんてのもやってみたいですね」。
チェンマイに5店舗目を出店した後は、どのような展開を考えているのでしょう?
「店舗はこれ以上増やすつもりはありません。それよりも、それぞれの店舗の質を高めていきたいのです。10年後には誰かに店を譲って、タイに来た時のような、いちボランティアに戻りたい。それとともに、いま<どんたく>でやっているように九州の食材やお酒などを世界に広めていきたい。先日、南アフリカに行ってきました。アフリカは本当に可能性に満ちていますね!」。
中村さんの視線の先には、アジアに留まらない「世界」が広がっていました。新たな挑戦へ向けた準備は、中村さんのなかですでに始まっています。あくまでも「日本の心」は忘れずに、よりスケールの大きなフィールドへ足を踏み出す日は、そう遠くないかもしれません。
普段はスクーターで店から店へと駆け回っています
酒飯・晩酌処 寅次郎 スクンビット・ソイ39店
Address
Sukhumvit Soi 49/6 (Soi Prompack), Klongton-Nua, Bangkok
Phone
02-261-5351
Open
17:30 ~ 24:00 (Close: 25:00), Sun. 16:30 ~ 23:00 (Close: 24:00)
酒飯・晩酌処 寅次郎 スクンビット・ソイ26店
Address
S&P Building 2F, 2/1 Soi Athakavi 1 Sukhumvit Soi 26, Bangkok
Phone
02-259-6075
Open
17:30 ~ 24:00 (Close: 25:00), Sun. 16:30 ~ 23:00 (Close: 24:00)
九州酒場 どんたく レイン・ヒル店
Address
Rain Hill 3F, Sukhumvit 47 Rd., Khlong Toei Nuea, Watthana, Bangkok 10110
Phone
02-261-7153
Open
17:30 ~ 24:00 (Close: 25:00), Sun. 16:30 ~ 23:00 (Close: 24:00)
九州酒場 どんたく 湯の森店
Address
Yunomori, A Square, Sukhumvit 26, Bangkok
Phone
02-259-6140
Open
17:30 ~ 24:00 (Close: 25:00), Sun. 16:30 ~ 23:00 (Close: 24:00)
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