果たして今時の日本の子供たちはどんな言い伝えを親から聞き育っているのだろうか? スマホを操ればどんな情報でも手に入る時代である。そもそも言い伝えやジンクスを信じない、いや知らない子供たちが多いのではないだろうか? 私が子供だった時代は、「夜中に口笛を吹くな」とか「夜中に爪を切るな」などと真顔で親から叱られたものだ。生活の中に言い伝えが確かにあった。
さてここタイでは今もなお色々な言い伝えが人々の暮らしの中に根付いている。一番身近なものは、タイ人がニックネームを使うことでないだろうか。タイ人のニックネームは子供の頃に、親や親戚が付けてくれることが多いという。本名で子供の名前を呼ぶと、悪霊が子供を連れ去って行くので、本名ではなくニックネームで呼ぶようにしているのだとか。このタイ人のニックネームには豚や猫、鳥、バラなど動植物系が多いが、親切、意地悪、デブ、雨など変わったニックネームを持つ人もいる。また最近では、ビリーやベンツ、ジョンなどと横文字系のニックネームが多いのは時代の流れだろうか。個人的にはタイ人のニックネームには随分助けられた。なぜなら、タイ人の本名は難しい名前が多く、また発音も難しい。なかなか覚えられないので、ついついニックネームで呼んでしまう。実はタイ人でも同じなのではないだろうか。長年交流があるタイ人同士でも本名を知らないという場合もあるようだ。
このほかにも、水曜日は髪を切ると縁起がわるいとか、妊婦は悪霊から身を守るために安全ピンを服に着けるとか、色々な言い伝えがタイでは信じられている。でも、そんな言い伝えのほとんどが霊に対する信仰から来ているのがタイらしいところだと思う。
タイには宗教とは別に精霊信仰が根付いている。大きな木には霊が宿るとされ、色々なお供え物が供えられる。近所にある木には女性の霊が宿っているらしく、女性ものの服を供える人が絶えない。
また大きな家や建物の敷地内には、その土地の精霊を祀るサーン・プラ・プームが立てられ、そこに出入りする人は必ずこの祀柱に挨拶するのがタイでの常識なのである。またお供え物をしたりすると、ご利益があるとも言われている。このサーン・プラ・プームは日本の神棚の様な存在かもしれない。また、建物の入口に赤い棚を置き家霊を祭る家もある。これは、どちらかと言うと中国からきた文化だろうか?
宗教以外の信仰。タイと日本の大きな違いは神を崇めるのか、霊を崇めるのかの違いだ。
日本は神の国。そしてタイは霊の国。そこが分かると、タイの違った一面が見えてくる。
中村蒸一 Profile
タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。 詳しくはこちらをクリック! インタビュー「熱い思いで本物の日本居酒屋をタイに根付かせる!」