タイに在留する邦人数は6万4000人。この人数は2014年10月の時点で大使館に在留届が出された数と永住者の数をまとめたものだ。観光客や短期出張中の邦人の数は含まない。また中には在留届を出さないままタイに滞在している人もいるだろう。実際には約8万人の邦人がタイにはいるのではないかといわれている。ちなみに6万4000人という数は前年の調査に比べ9%増。タイに住む邦人の数が1割近くも増えているのは正直、意外な気がした。
月に最低2回はチェンマイへ出張する。チェンマイには年金を貰いながらタイで暮らす邦人の長期滞在者が多い。しかし昨年あたりからチェンマイを離れ日本へ帰る長期滞在者の話を良く耳にするようになった。気候もよく、物価もバンコクに比べて安いのがチェンマイだった。そう、「だった」のである。
2年ほど前から最低賃金が300バーツに引き上げられてから、チェンマイの物価は日に日に上がってきている。物によってはバンコクよりも高いものもある。しかし、そんなことより一番にチェンマイの邦人長期滞在者を困らせたのは円安バーツ高ではないだろうか?
3年ほど前の2012年には1万円が3800バーツ程だった。しかし、2013年以降どんどんと円安バーツ高が進み今年に入ってからは1万円が2600バーツまで下がっている。1万円両替して1000バーツ以上も違えば円で生活する人は堪ったものではない。最初のうちは辛抱していた日本人長期滞在者もそろそろ潮時とチェンマイを、タイを離れつつあるのだ。
それなのに、タイに在留する邦人の数はタイ全土では増えている。リタイヤメントといわれる年金暮らしの長期滞在者の数は元々そんなに多くなかったのだろう。
逆にこのバーツ高でタイの輸出産業は好調だ。その恩恵を受けている日系企業も少なくない。またバーツ高を追い風に日本へ行くタイ人の数も増え航空業界や旅行会社は好成績が続いていると言う。個人的にはバーツ高のおかげで日本からの輸入食材が少しずつ安くなっているのは有難い。円安バーツ高は決して悪いことだけじゃないのだ。
チェンマイでは長期滞在者が減り日本人として何とも言えぬ寂しさを感じていた。
しかし、実際には前年比で9%も増えていたとは。人間の感覚と統計の差異。木ではなく森を見る、知る。その大切さを久しぶりに感じた。
中村蒸一 Profile
タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。 詳しくはこちらをクリック! インタビュー「熱い思いで本物の日本居酒屋をタイに根付かせる!」