会議が終わり、書類を鞄にしまおうとしていた時だった。「プミポン国王がお亡くなりになったらしい」。経理のタイ人スタッフが今にも泣き崩れそうな顔で教えてくれた。間もなく会社を閉める午後6時前。会社のスタッフもこれから帰宅するところだった。街中は相変わらずの渋滞で、路地の中まで車が連なっている。普段と変わらないバンコクの夕暮れ時の風景だ。自宅へ戻りテレビを付けると全てのチャンネルがプミポン国王を追悼する特別番組になっている。これをみて、やっぱり本当だったのかと、はじめて実感が湧いてきた。確か、昭和天皇が崩御された際もそうだった気がする。日本の全てのテレビ番組が特別番組になって吃驚した記憶が、かすかに蘇ってきた。今から28年前だから中学生の頃のことだ。
多分、タイ国民も心の準備は出来ていたはずだと思う。しかし、いざ現実になると、まさかという思いと、持って行き場のない悲しみに多くの人が心を震わせている。近所の食堂の女将さんはテレビの前で泣いて仕事が手に着かない様子だった。10月13日の夜はタイ国民にとってもそうだろうが、私にとっても忘れ難い一夜になった。
プラユット首相は、政府機関や国営企業、教育機関は14日から30日間半旗を掲げ、公務員、国営企業職員は一年間服喪すると発表。一般の国民には娯楽的な活動を30日間は自粛するように呼び掛けている。
一夜明けた14日は政府機関や公務員は公休日になった。街中を歩くタイ人の多くが黒い服を着て国王の逝去をいたんでいる。普段は騒がしい建築現場も黒の幕が掛けられ休業になっていた。コンビニ、ショッピングセンターなどの商店や飲食店は店内で流す音楽の音量を落としながらも普段通り営業している。アルコールの販売に関しては、それを自粛しているスーパーや飲食店もある。しかし、あくまでも自粛であり法的な規制によるものではない。
テレビは15日になって通常の放送になったが娯楽番組は依然として自粛の状態にあるようだ。
街中のATMやタイ企業のホームページは国王追悼のメッセージが表示され、白黒の表示だったりする。コンサートやサッカーの試合、伝統行事も取り止めが目立つ。服喪の感覚がなんとなく日本に近いなと思ったりもした。
この国に縁を頂き、住み仕事をさせていただき19年。プミポン国王の御冥福を心からお祈りし、哀悼の意を表したいと思います。
中村蒸一 Profile
タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。 詳しくはこちらをクリック! インタビュー「熱い思いで本物の日本居酒屋をタイに根付かせる!」