日本へ出張する時のちょっとした楽しみ。それは移動中の空港で買う駅弁だ。人によっては空港で買う弁当を「空弁」と呼ぶ人もいる。確かに空港でしか買えない弁当は空弁でもいい。でも、私のこだわりは鉄道駅でも売られている名物の駅弁を空港で買うことなのだ。一番のお気に入りは『崎陽軒』の「シュウマイ弁当」。横浜駅の名物弁当を羽田空港で見つけた時は不思議なぐらい嬉しかった。しかも値段は駅で買うのと同じ830円である。列車の中で食べる弁当を飛行機の中で食べる。確かに風情は列車より劣る。だが、限られた日本での移動時間に懐かしい名物弁当を味わえるのは、何ともいえない贅沢な時間なのだ。
ここタイには駅弁も空弁もない。だから飛行機や長距離バスでは機内食や車内食が出されることが多い。日本の国内線飛行機ではドリンクのサービスしかない。しかし、ここタイでは国内線であっても機内食ないしは「おやつ」が出てくる。LCCと呼ばれる格安航空会社は有料だが、タイ国際航空やバンコク・エアウェイズは無料だ。その辺で、LCCとの差別化を図っているような気もする。なかでも、バンコク・エアウェイズの機内食は自らを「アジアのブティック・エアライン」と呼ぶだけあって、気合が入ったものが多い。バンコクとチェンマイ間はたった50分ほどのフライトだが、ちゃんとホットミールが出てくる。量は少なめだが、やはり温かい料理というのはお腹だけでなく心まで満たされる気がする。しかも、フライトの時間帯によって料理が変わっていたりする。イサーン風干し肉ともち米の機内食が出てきたときは、タイらしさが全開で、タイ料理が好きな人には堪らないだろうなと思った。
一方、タイ国際航空はサンドウィッチやパンケーキなどの軽食系が多い。機内食と言うよりは「おやつ」である。バンコク・エアウェイズと違い大型機材での運航が多いタイ国際航空の場合、短時間でホットミールを出すというのは無理があるのだろう。しかし、先月、「キンジェー」と呼ばれる菜食週間に、バンコクからチェンマイへ飛んだ時のタイ国際航空の機内食はちょっとビックリした。なんとベジタリアン仕様の稲荷寿司と豆乳が機内食として出てきたのだ。しかも、なかなかの味である。時に、こんな感じで期間限定バージョンの機内食に出会えるのも飛行機に乗る時の楽しみだったりする。
さて、次はどんな変わった機内食が登場するのだろう? チェンマイ出張の時の楽しみは、やっぱり機内食かもしれない。
中村蒸一 Profile
タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。 詳しくはこちらをクリック! インタビュー「熱い思いで本物の日本居酒屋をタイに根付かせる!」