三島由紀夫の小説『暁の寺』で聞こえる
あの声はいずこへ?

ワット・アルン バンコク

タイを代表する寺院の一つにワット・アルンがある。10バーツ硬貨の裏側に描かれているお寺だ。日本人には暁の寺と書いた方が分かりやすいかもしれない。
「バンコクは雨季だった。」
この言葉ではじまる三島由紀夫の著書『暁の寺』はこの寺院が舞台で、ご存じの方も多いと思う。
「日は対岸の暁の寺の彼方へ沈んでいた。しかし、巨大な夕焼けは23の高塔を影絵に縁取るほかは、トンブリの密林の平たい景観の上の、広大な空を思うさま鷲掴みにしていた。
密林の緑はこのとき光を綿のように含んで、まことのエメラルドの色になった。舢板がゆきかい、鴉(からす)は騒がしく、川水は汚れた薔薇色にたたずんでいた」
ここまで日本語を細微かつ優麗に使いこなすのは三島ならではだと思う。実際にチャオプラヤ川から眺めるワット・アルンは今も三島が書いた雰囲気のまま佇んでいる。ただ1つだけ違うのは騒がしいカラスがいない事だ。
バンコクに住んで16年になる。しかし未だにカラスの姿を見たことも、鳴き声を聞いたこともない。嘘だろうと思うが事実である。バンコクにはカラスがいない。なぜだろう?
1つ思い浮かぶのが、バンコクのごみ収集のシステムだ。バンコクのごみ収集車は大概深夜から早朝にかけて回ってくる。渋滞を生まない。渋滞に巻き込まれない。この2つが深夜に収集する理由なのは想像するに難しくない。収集する方も暑い昼間より涼しい深夜の方が収集しやすいだろう。バンコク都はごみを出す時間を午後6時から深夜3時までと条例で定めている。
だからかどうかは分からない。でもバンコクには鴉がいないのだ。もしかしたらタイの鴉は日本へ出稼ぎに行っているのかもしれない。東京など日本の大都会もバンコク同様ごみ収集を深夜にしてみたらどうだろう。鴉が減るかどうかは分からない・・・。でも泥棒などの犯罪は少しは減るような気がする。

 

中村蒸一 Profile

ph7

タイで日本居酒屋<寅次郎><どんたく 九州酒場>を展開する、なえぎ(タイランド)株式会社代表。
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